AIを使って申告書の数値整理や説明文の下書きを作ったら、提出前に原資料、計算結果、適用年度、顧問先固有の事情、添付書面を照合します。確認済みという印だけでなく、何を根拠に採用したか、誰が判断したかまで残すことを提案します。
この記事は、税理士事務所で使う確認手順のひな型です。法人税の例を含みますが、税目別の法定要件を網羅するものではありません。対象の税目・年度・案件に合わせ、担当税理士が確認項目と提出判断を定めてください。制度の参照先は2026年9月14日に確認しています。
提出前には、何を何と照合する?
まず、提出候補のファイルを一つに決め、その版に対する確認結果を記録します。確認中に下書きを更新した場合は、変更箇所と影響する計算・説明を再確認する手順にします。
| 確認するもの | 照合する資料・情報 | 記録する結果 |
|---|---|---|
| 顧問先・対象期間 | 依頼内容、対象年度の資料、案件情報 | 別の顧問先や年度の情報が混ざっていないか |
| 転記した数値 | 原資料、会計ソフトから出した集計、確定した計算表 | 元の項目と転記先、差額とその理由 |
| 適用した制度・様式 | 対象年度の公式案内、記載要領、適用条件 | 参照先、該当箇所、案件への適用判断 |
| 顧問先固有の事情 | 当期の確認記録、前期から引き継ぐ事項、追加資料 | 反映した事実、確認待ちの事実、確認相手 |
| 添付書面の説明 | 申告書の提出候補、実際の確認・計算の記録 | 本体との整合と、実施内容との一致 |
| 最終版と承認 | 修正履歴、確認者の記録、提出するファイル | 採用した版、確認日、提出判断をした人 |
AIに資料を渡す範囲も先に決めます。個人情報保護委員会は、個人情報を入力する場合に利用目的に必要な範囲かを確認し、本人の同意なく個人データを入力する場合には学習利用されないこと等を十分に確認するよう注意喚起しています。確認作業のために、未承認のサービスへ顧問先資料を追加で渡す手順にはしません。個人情報保護委員会の注意喚起・個人情報取扱事業者における注意点
数字が合っていれば、確認は終わり?
合計値の一致と、個々の処理の採用判断は別に記録します。たとえば法人税の確認表を作るなら、会計上の数値を参照する項目、申告調整を加える項目、前期からの引継ぎを確認する項目を分けます。どの欄が一致すべきかは、使用する様式とその記載要領に沿って定めます。
AIへの再質問だけで確認済みにせず、原資料や確定した計算表まで戻ってください。差があれば「差額」「理由」「採用する値と根拠」をセットで残し、不明な差額を説明文で埋めない運用にします。
税制や申告書の様式は、どの年度で確認する?
案件の対象期間と、資料が対象とする期間を照合します。たとえばe-Taxの法人税確定申告等の案内は、終了事業年度等ごとに利用可能な手続・様式を掲載しています。案内を読んだ日付だけでなく、対象とする事業年度を確認する必要があります。
制度を適用する箇所ごとに、公式の参照先、対象期間、要件に関係する顧問先の事実、担当税理士の判断を記録します。前期の文章を流用する場合も、今期の事実と条件に照らして見直してください。
顧問先の事情は、AIに渡した資料だけで確認できる?
入力資料の一覧と、確認が必要な事項の一覧を分けて突き合わせます。資料に書かれていない事項を「該当なし」と扱わず、担当者への確認対象として残します。
確認表を作る際の項目例は、前期から引き継ぐ処理、当期に変わった取引や契約、期中の組織変更、決算時に追加で受領した資料です。案件に必要な項目を選び、事実の出典と確認日を記入してください。過去の説明と当期の資料が食い違う場合は、どちらを採用するかを担当税理士に戻します。
AIで書いた添付書面は、何と照合する?
書面添付制度を利用する場合は、実際に行った確認・計算と、書面に記載した内容を照合します。国税庁のQ&Aは、計算事項等記載書面等について、申告書の作成等に関して計算・整理・相談・審査した事項を記載するものと説明しています。国税庁・書面添付制度に関するQ&A、問4-3
AIには、実施済みの確認記録を文章に整える範囲を指定します。下書きに記載された資料名、検討した論点、採用した計算方法を元の記録と照合し、行っていない審査や確認を記載しないでください。説明文を直した場合は、申告書本体と対応する箇所も見直します。
確認待ちの項目が残ったら、どう進める?
期限が近い場合は、確認待ちの事項と提出期限をまとめ、担当税理士へ判断を戻します。連絡するときは、次の内容を揃えます。
- 対象の申告書・年度・提出期限と、確認が止まっている箇所。
- 不足している資料・事実と、それを確認できる相手。
- どの計算・記載・適用判断に影響するか。
- 追加確認の担当と回答期限、提出方法や期限について判断が必要な事項。
「確認が終わらないから延長申請を出せばよい」とは扱いません。たとえば国税庁のC1-16は、災害その他やむを得ない理由で決算が確定せず、法人税の確定申告書を期限までに提出できない場合の延長手続です。案件に適用できる制度と申請期限を、担当税理士が個別に確認してください。国税庁・C1-16「申告期限の延長の申請」
提出前の確認記録には、何を残す?
次のひな型を、事務所の案件管理表や確認票に組み込みます。AIの出力全文を貼るだけで終えず、採用した内容とその根拠へ辿れる記録にしてください。
| 記録欄 | 記入する内容 |
|---|---|
| 対象 | 案件、税目、対象期間、提出候補のファイルと版 |
| AIを使った範囲 | 数値の整理、説明文の下書きなど、任せた作業 |
| 照合 | 確認箇所、原資料・公式資料の参照先、確認結果 |
| 修正 | 修正前後の内容、修正理由、影響箇所の再確認 |
| 残件 | 確認待ちの事項、確認相手、担当者、回答期限 |
| 最終判断 | 確認者、確認日、採用した版、提出判断の記録 |
資料や履歴の保管先・アクセス権・保管期間は、事務所のルールと適用される保存要件に合わせて決めます。確認票を導入する際は、一つの案件で原資料から提出候補まで辿り、記録が途切れる箇所を補ってください。事務所全体で任せる業務と確認する業務を決める順序は、税理士事務所のAI導入ガイドで整理しています。