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2026 / 05 / 27 ベストプラクティス

事務所ブログを公開する前に確認しておきたい執筆プロセスのこと

Lead

事務所のオウンドメディアで AI を執筆補助に使う場面が増えてきています。執筆者の明示・一次情報の確認・実務経験の組み込みを、業務の流れの中にどう置くかをご紹介します。

事務所のオウンドメディアやコラム運営をしている士業の方から、「ChatGPT で下書きを量産したら、Google からペナルティを受けるのでしょうか」「AI で書いた記事はインデックスから外されると聞いたのですが」というご質問をいただく機会が増えてきました。検索順位への影響を心配される場面と、書面の信頼性を顧問先がどう受け取るかを心配される場面が、同時に出てくることが多いようです。

Google Search Central が 2023 年 2 月に公開した「Google Search’s guidance about AI-generated content」では、AI で生成したかどうかで一律に区別する立場は取らない、と明示されています。評価軸は「helpful, reliable, people-first content (人のために作られた、有用で信頼できるコンテンツ)」で一貫していて、作り手が人間か AI かは判断の主軸にしない、と読めます。本稿は、この公式の整理を踏まえながら、事務所ブログを公開する前に業務の流れの中で確認しておきたいことをご紹介します。

公式の整理に出てくる二つの軸

Google が公式ブログと spam policies で示している軸は、おおむね次のような形になっています。

一つは「scaled content abuse」という考え方です。spam policies のページでは、検索順位の操作を主目的にした大量ページ生成を抑止する規定として置かれていて、AI を使っているかどうかが本質ではなく、ユーザー価値の薄いものを大量に出している状態が評価を下げる、という整理です。例として挙げられているのは、生成 AI でユーザー価値の薄いページを大量に出すこと、検索結果やフィードを自動的に整形して大量のページにすること、複数のページから内容を寄せ集めて追加の価値なく公開すること、といった運用です。

もう一つが E-E-A-T (Experience / Expertise / Authoritativeness / Trustworthiness) です。検索品質評価ガイドラインは長らく E-A-T を重視してきましたが、2022 年 12 月の更新で Experience が加わって E-E-A-T と呼ばれるようになりました。公式ヘルプの文言では、4 要素のうち Trust (信頼性) が中心に置かれ、他の要素はそれを支える形と説明されています。

士業ブログの場面に当てはめると、Experience は実際に案件として扱った経験や実務での試行錯誤、Expertise は専門資格や所属、Authoritativeness は業界・地域での認知や登壇実績、Trustworthiness は事務所情報の明示・執筆者名・問い合わせ導線・誤りの訂正履歴、といった要素になります。AI を執筆補助に使った記事であっても、これらの要素が薄ければ「誰が書いたか分からない解説記事」と見分けがつきにくくなり、検索順位の前に顧問先候補からの信頼を獲得しにくくなる場面があります。

scaled content abuse に近づきやすい運用

公式ページの記述から、士業ブログの文脈に置き換えてみると、次のような運用は scaled content abuse に近づきやすい領域として整理できます。

  • 「税理士 顧問料 相場 東京都〇〇区」「税理士 顧問料 相場 東京都△△区」のように地名だけ差し替えた記事を量産する流れ
  • 法令や判例の要約を AI に作らせて、見解や実務経験を加えずに並べた記事を増やしていく流れ
  • 他事務所のコラムを言い換えて並べたものを公開する流れ

量産そのものが直ちに違反になるという立て付けではなく、「専門家としての判断や経験が見えない記事を大量に出している」状態が評価を下げる経路として整理されています。AI を補助的に使うこと自体は方針上の論点になりにくいですが、「字数を稼ぐために AI に書かせた記事」を放流する運用は、後で困りやすい場面が増える方向に進むことが多いように見えます。

執筆プロセスを業務の流れに置いておく

「AI で下書きしてよいでしょうか」というご質問には、「下書きは大いに使えます。公開前に専門家が責任を持って整える流れがあるなら」というお答えに近くなります。執筆プロセスを業務の流れの中に置いておく工夫として、次のような形を取っている事務所もあります。

構成案 (H2/H3) は AI に提案させても、自所の専門性や読者像を反映して人が確定する流れにしておきます。一次情報 (法令・公的ガイドライン・通達・判例) は人が探して、URL と該当箇所を本文・参考リンクに明示します。AI 出力の事実関係・条文番号・年月日は、執筆者 (資格者の方ご本人) が一次情報で照合します。自所での具体例や経験を一つ以上入れて、汎用的な解説で終わらないようにします。「結論として何を勧めるか / 何を勧めないか」を専門家として明示します。公開前に「執筆者は誰か」「執筆日は明確か」「最終更新日は妥当か」を確認します。

避けたい運用としては、AI が生成したものを無編集で公開する流れ、同じテンプレートで地名や業種だけを差し替えた量産、出典のない断定的な記述、執筆者や事務所が特定できない匿名コラムの大量公開、といった形が挙げられます。scaled content abuse と E-E-A-T 不足の両面で評価が下がりやすい経路です。

士業ブログは「現行法令」「最新の通達」「公的ガイドライン」など、一次情報との接続が読者の意思決定に直結する領域が多くあります。引用している法律・通達のリンクと条文番号、引用している判例の出典 (裁判所・事件番号・年月日)、引用している公的ガイドラインの版数・公開日を本文と参考リンクで明示しておくと、読者・顧問先候補にとって受け取りやすい形になります。AI が生成した条文番号・判例番号・統計値は誤りが混じることがあり、「AI に書かせたあとに、人間が一次情報で検算する」工程を業務の流れに置いておくと、安心感が増します。

執筆プロセス側の守秘義務・個人情報の論点

SEO の論点とは別の軸として、ブログ記事を作る場面での守秘義務・個人情報保護法上の論点があります。「ブログだから守秘義務とは関係ない」と感じやすい場面ですが、ネタ出しや下書きの過程で顧問先の生情報をプロンプトに入れてしまう経路は、思いのほか身近にあります。

個人情報保護委員会は 2023 年 6 月 2 日付で「生成 AI サービスの利用に関する注意喚起等」を公表していて、生成 AI に個人情報を含むプロンプトを入力する場合の留意点を示しています。執筆プロセスにこれを当てはめると、顧問先名・案件番号・固有名詞を入れたままプロンプトを書かない流れにしておくこと、実際の事案を題材にする場合は識別可能な要素を除いた架空ケースとして構成すること、AI に入力するブログネタや下書きが学習に使われない設定で運用すること (エンタープライズ契約・学習除外設定など)、生成された原稿に顧問先固有情報が混入していないかを公開前に確認すること、引用する判例・記事のスクリーンショットを AI に投げる際は画像内の個人情報を確認すること、執筆フローのログ (いつ・誰が・どの AI を使ったか) を残して後から振り返れる状態にしておくこと、といった項目が見えてきます。

記事公開時の論点だけでなく、執筆プロセスの論点も合わせて業務の流れに置いておくと、後から困りにくい運用に近づきます。

自所への適用を進めるときの流れ

ここまでの整理を、自所のブログ運用に落とし込むときの流れをご紹介します。事務所の規模・既存のコラム本数・スタッフ体制によって順序は前後しますが、おおむねこの順で進めると後段の手戻りが小さくなる場面が多いです。

既存記事の棚卸しから始める

既に公開している記事を全件チェックして、執筆者 (資格者の氏名・所属) の明示、引用している法令・判例・ガイドラインの一次情報リンク、最終更新日の表示、の 3 点が揃っているかを確認します。揃っていない記事は、量産記事と見分けがつきにくい状態に近づいている場合があります。新規記事の公開ガイドラインに組み込む前に、既存記事の点検から始めるほうが、現実的な負荷感が掴みやすい流れになります。

執筆フローを工程として固定する

AI に書かせて即公開、という流れを間に置かないために、「下書き → 一次情報照合 → 執筆者レビュー → 公開」という工程を文書化しておきます。一次情報照合と執筆者レビューを別工程に分けておくと、AI 出力の体裁の良さに引きずられて検算が形だけになる場面が減ります。所内で執筆と監修を分けられない場面では、「翌日に自分で読み返してから公開する」という時間的な分離を入れる事務所もあります。

入力ルールを所内で言葉にしておく

AI を執筆に使う前に、「顧問先名・案件番号・固有名詞を入れない」「具体ケースは架空化する」「使用するアカウントは学習除外設定の法人プランに限定する」といったルールを所内で文書化しておきます。執筆プロセス側の論点への対応で、公開時の論点とは別レイヤーで置いておく整理です。

3 つの流れはいずれも、ツール選定の前に決めておけるもので、内製で着手できる範囲に収まる場面が多いです。Google の方針は「AI 生成コンテンツ自体を禁止する」ではなく「人のための価値ある内容かどうかで評価する」に近い、という現時点の整理を踏まえると、scaled content abuse に近い量産運用を間に置かないようにしつつ、E-E-A-T (特に Trustworthiness) を支える執筆者明示・一次情報・実務経験の組み込みを丁寧に進める流れが、事務所ブログ運用の本筋になっていきそうです。「AI を使うかどうか」より、「AI 出力を一次情報と専門家レビューで通過させる工程を、自所として業務の流れに置いているか」が、運用の中心になっていく場面が増えてきているように見えます。

参考

Author · 著者

三方 浩允

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