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2026 / 07 / 21 ベストプラクティス

顧問先への納品物にAI出力を組み込むときに、責任の所在を整理しておく

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業務の一部にAIを使った場面で、最終出力に対する責任が誰に帰属するかを、AIベンダーの利用規約・国内のガイドライン・士業の専門責任の三つの面から並べて見ていきます。

業務の一部にAIを入れる検討を始めると、 顧問先への回答や申請書類にAI出力が混ざる場面が出てきます。 そのとき事務所内で最初に話題になるのが、 「もし誤りがあったら、 誰が責任を負うのか」 という論点です。 この問いについて、AIベンダーの利用規約、 国内のAI事業者ガイドライン、 士業の専門責任という三つの面から、 現在の整理を並べて見ていきます。

なお本記事は士業実務における一般的な論点の紹介で、 個別事案の適法性判断・契約条項のリーガルレビューではありません。AIベンダー利用規約・AI事業者ガイドライン・各士業法は改定が続く領域なので、 実際の運用は、 所属士業会の最新指針・顧問弁護士の見解・ベンダーの最新公式規約・最新の法令テキスト (e-Gov法令検索 等) でご確認ください。

AIベンダーの利用規約に書かれていること

主要な生成AIベンダーの商用利用規約には、 「出力の正確性は保証しない」 「出力の適切性は利用者側で評価する」 という趣旨の条項がそろっています。

AnthropicのCommercial Terms of Service (Effective 2025-06-17時点) では、 出力 (Outputs) について次のような趣旨の条項が置かれています。

  • 出力が顧客のユースケースに適切かどうかの評価は、 人間によるレビュー (human review) が適切な場合を含めて、 顧客側の責務になる
  • サービスや出力が正確・完全・エラーフリーであることをAnthropicは保証しない
  • 出力中の事実主張は、 独立して正確性を検証することなく依拠すべきではなく、 虚偽・不完全・誤解を招く内容が含まれ得ることを顧客は認識する義務がある

OpenAIのTerms of UseやBusiness Termsも、 おおむね同様の方向で書かれています (= 「出力の正確性は保証されず、 業務利用での適切性評価は利用者側の責任」)。 最新の条項は、 記事末の参考リンクから公式ページでご確認ください。

ここから読み取れる構造は、 そう複雑ではありません。AIベンダーはモデルを動かす義務までは負うけれども、 出力された個別の文章・数値・条文番号の正確性は引き受けない、 という設計です。AIの出力を顧問先への回答・申請書類・準備書面に組み込んだ時点で、 その出力に対する責任は、 業務側に寄っていく形になっています。

国内のAI事業者ガイドラインが利用者側に求めていること

国内の公的なガイドラインでも、 同じ方向の整理が示されています。 経済産業省・総務省が公表している 「AI事業者ガイドライン」 では、AIに関わる主体を 「AI開発者」 「AI提供者」 「AI利用者 (業務利用者)」 のレイヤーに分けて、 それぞれの責務が記述されています。 最新版やバージョン番号は、 記事末の参考リンクから公式ページでご確認ください。

士業事務所が業務の一部にAIを入れる場合、 多くは 「AI利用者 (業務利用者)」 の側に該当します。 この層で共通して求められているのは、 おおむね次のような事項です。

  • 利用するAIの特性と限界を理解したうえで使うこと
  • 出力結果を鵜呑みにせず、 業務上の意思決定や成果物に組み込む際にはレビュー・検証を行うこと
  • 個人情報・機密情報をプロンプトに入力する場合、 提供事業者の利用規約やデータ取扱方針を確認すること
  • 第三者 (顧問先・依頼者) に影響を与える出力については、 説明可能性や透明性を確保すること

ベンダー利用規約と公的ガイドラインの両方が、 「最終出力の責任は利用者側にある」 という同じ方向に揃っています。 業務にAIを入れる運用を設計するときに、 押さえておきたい前提です。

士業の専門責任が乗る構図

ここからが士業特有の話になります。AIベンダーが出力責任を負わない設計で、AI事業者ガイドラインも利用者責任を求めている前提に、 士業ごとの法定の専門責任が乗ってきます。

士業関連する責任の根拠 (例)AI利用で問題になりやすい場面
税理士税理士法・善管注意義務通達・条文の誤引用、 計算誤り
弁護士弁護士法・守秘義務 (第23条)架空判例、 依頼者情報の入力
司法書士司法書士法・本人確認義務登記・申請書式の誤り
行政書士行政書士法・業務範囲業務範囲外案件、 許認可要件の誤判定
社労士社会保険労務士法算定基礎・労務助言の根拠不備

いずれの士業でも、 依頼者や顧問先に対する善管注意義務が、 法定または契約上、 ご本人に発生する形になっています。AIの出力をそのまま納品物に組み込んで、 その出力が誤っていて損害が発生した場合、 損害賠償請求の相手として最初に名前が挙がるのは、AIベンダーではなく士業の方ご本人になりやすいようです。

理由は、 依頼者・顧問先がAIベンダーと直接の契約関係を持たず、 士業との委任契約・顧問契約だけが存在するからです。 業務にAIを使うかどうかは、 士業側の業務遂行手段の選択であって、 その選択についての責任は、 士業側にとどまる構造になっています。 「AIを補助として使っただけ」 と説明しても、 納品物が最終的に士業の名義で出ている以上、 専門家責任の射程からは外れにくいようです。

顧客説明・契約書・成果物注記で書き分ける場面

「責任を回避する」 という発想ではなく、 「責任の所在を明示して、 依頼者と認識を揃える」 という発想にしておくと、 後で困りにくいようです。 書き分けの場所として、 多くの事務所で出てくるのは次のような場面です。

委任契約書・顧問契約書

業務遂行にあたって生成AIを補助的に利用する場合がある旨を、 契約書に置いておく事務所もあります。 入力データの取扱いに関する同意の有無、 最終出力は士業の責任において確認・提出する旨も合わせて書いておく形です。

業務報告書・成果物への注記

AIを補助利用した範囲を、 脚注や別紙で明示しておく事務所もあります。 「最終確認は当事務所が行いました」 のサインオフ、 出典確認運用の内部証跡を、 業務記録として残しておく流れです。

顧客説明資料・Webサイト・受任時案内

事務所としてAIをどう使うか、 どう使わないかを明文化して、 依頼者からの問い合わせに書面ベースで回答できる状態にしておく事務所もあります。

「AIを使っていることを言わない」 という運用は、 紛争が起きた局面で防御線になりにくいようです。 利用の事実と責任の所在を、 依頼者が誤解しない形で開示しておくほうが、 後の説明がしやすくなることが多いです。

入口側 (= 入力データ) の取扱いも同じ場面でつながります

責任の所在は、 契約や説明だけの話ではありません。AI出力の責任を引き受けるということは、AIへの入力データの管理責任も引き受けるということです。 入口と出口の両側に、 業務側の論点がつながってきます。

個人情報保護委員会は2023年6月2日付で 「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」 を公表しています。 ここでは次のような留意点が示されています。

  • 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、 特定された利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認すること
  • あらかじめ本人の同意を得ることなく個人データを含むプロンプトを入力し、 応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、 個人情報保護法に違反する可能性があるため、 当該データを機械学習に利用しない契約・運用であることを十分に確認すること
  • 一般利用者についても、 入力情報が機械学習に利用され、 他の情報と統計的に結びついて出力されるリスクを踏まえて、 適切に判断すること

士業事務所はほぼ全件で 「個人情報取扱事業者」 に該当します。AIベンダーが出力責任を負わない契約で、 国内当局が入力データの管理を事業者側に求めているという二つを並べると、 入口と出口の両側で業務側に責任が乗る構図が見えてきます。 利用AIのプラン種別・学習利用の可否・保管場所・入力ログ・アクセス権限・越境移転・漏えい時の報告フローを、 運用設計に含めておくと、 後から振り返りやすくなります。

よく出る質問への整理

AI出力に対する責任は、 結局どこに行くのか

AIベンダーの利用規約は出力の正確性を保証しません。 国内ガイドラインも利用者側に責任を求めています。 業務にAIを入れて、 その出力を士業の名義で納品物に組み込んだ場合、 依頼者や顧問先に対する最終責任は、 士業の方ご本人にかかる構図になっているようです。

「AIを補助で使っただけ」 と説明すれば責任は軽くなるか

依頼者・顧問先は、AIベンダーと直接の契約関係を持っていません。 士業との委任契約・顧問契約だけが間にあります。 業務にAIを使うかどうかは士業側の業務遂行手段の選択なので、 補助利用の説明だけで専門家責任の射程から外れることは、 難しいようです。 契約書・成果物注記・受任時案内の三つの場面で利用事実と責任所在を開示しておく運用が、 紛争時の防御線になることが多いと聞きます。

まだ運用に落ちきっていない論点

ここまでの整理は、AIベンダー規約・国内ガイドライン・士業の専門責任が、 利用者責任の方向でそろっている現状を前提にしたものです。 一方で、 まだ運用に落ちきっていない論点も残っています。

AIベンダー規約が、 今後どこまで利用者側の責任設計を強化するか、 という論点があります。AnthropicやOpenAIの利用規約は継続的に改定されていて、 業務利用者に求められるレビュー水準・記録保全の要件が明文化される方向にあるようです。 事務所側の運用は、 規約改定の都度ローリングで見直していくのが現実的な姿になります。

損害賠償時のベンダー求償ルートも、 まだ事例の蓄積が乏しい領域です。AIベンダー側に明らかな欠陥 (モデルの異常出力、 保管側の情報漏えい 等) が認められた場面で、 士業からAIベンダーへの求償がどの程度成立するかは、 現時点では未確定の部分が多いようです。 当面は、 ベンダーへの求償を前提にしない設計で運用ルールを組んでおくと、 後から困りにくくなります。

依頼者側のAIリテラシーが上がったときの説明責任も、 これから出てくる場面です。 顧問先側でも生成AIの理解が進むと、 「AI出力をそのまま納品されている経路がないか」 を問う水準のチェックが入ってきます。 受任時案内・成果物注記の開示水準を、 依頼者側の理解度に合わせて引き上げていく運用に倒しておくと、 後で困りにくいようです。

所属会のガイドラインとの整合もあります。 現時点で各士業会の生成AI関連ガイドラインは整備過程にある領域なので、 事務所側の運用ルールが将来のガイドラインに整合し続ける保証はありません。 所属会の公表物を定期的に確認して、 契約書条項や成果物注記の文言を更新していく運用に置いておくと、 改定の追従がしやすくなります。

AIベンダーの利用規約も、 国内のAI事業者ガイドラインも、 「最終出力の責任は利用者側にある」 という方向で揃っています。 業務にAIを入れて顧問先・依頼者向けの納品物に組み込む場面では、 その責任は士業の方ご本人にかかる構図です。 「責任を回避する」 ではなく、 「責任の所在を契約・運用ルール・顧客説明の三つの場面で明示する」 という発想に倒しておくと、 規約改定・所属会ガイドラインの更新があったときに、 運用を巻き直しやすくなります。

参考

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士業AI

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