顧問先向けニュースレターは、半年から1年ほど経つと「続いている事務所」と「最初の1号で止まっている事務所」に分かれることが多いです。テーマ出しから配信までの工程を一人で抱え込むと、本業の繁忙期にスケジュールが消えてしまう、という場面が見られることもあります。「月1で出したい」という宣言と「実際に月1で出ている」状態のあいだには、工程の置き方の差があるように見えてきます。
この差を埋めるために、業務の一部にAIを入れて使っている事務所もあります。一方で、ニュースレターは事務所名で発信する公式の文書ですので、誤った法令解釈や顧問先固有の情報が混ざると顧問先との関係に直接響きます。速く出すことと、事務所名で出して恥ずかしくない品質を両立させるために、AIに任せる工程と士業の方ご本人が押さえる工程を分けて設計する流れになります。
ニュースレター制作の流れの中でAIが入る場面
ニュースレター制作を、企画・原稿・翻訳・配信の四つの流れに分けて見ていきます。それぞれの場面でAIを道具として使う事務所もあります。
企画の段階では、直近の法改正・通達・統計をリスト化し、顧問先の業種別に「関係しそうなトピック」の候補をAIに出させる、という使い方があります。最終的に何を載せるかは士業の方ご本人が決める形になります。
原稿の段階では、テーマと素材(一次情報のURL・要約メモ)を渡して、所内文体に近い下書きを生成させる場面があります。ゼロから書くより、校正主体の作業に切り替わることが多いです。
翻訳の段階では、外国人顧問先向けに英語版・中国語版を出す事務所で、翻訳ドラフトや長文通達の要約に使うことがあります。
配信の段階では、件名のパターン生成、配信日時の検討、配信後の開封率レポートの読み解き支援などに使う事務所もあります。
AIが返す「最新情報」は学習データの時点に依存しますので、法令の改正日・施行日・施行通達の有無は、官公庁の一次情報で裏取りする手順を業務の流れの中に置いておく形になります。
毎号の骨格を固定しておく
毎号の骨格を固定しておくと、AIに渡すプロンプトも安定し、レビューの観点もぶれにくくなります。一例として、巻頭挨拶(150〜250字、所長が手で書く)、法改正トピック(400〜600字、下書き後に裏取り)、通達・Q&A解説(300〜500字、引用と事務所コメント)、統計・調査紹介(200〜300字、数値ダブルチェック)、顧問先向け案内(100〜200字、所内情報で手書き)といった構成を取っている事務所もあります。
骨格を毎号変えてしまうと、執筆者・レビュー担当者の負荷が読みにくくなります。テンプレートに当てはめて空欄を埋める形に持ち込んでおく、という運用が一つの選択肢です。
提出前に確認しておきたい場面
ニュースレターで後から困りやすい場面は、いくつかの形に整理できます。
一つは、法改正の施行日・経過措置の表記です。「○年○月から施行」「経過措置あり/なし」をAI出力のまま載せると、当期に適用される版とずれることがあります。所管省庁の公布・施行情報で確認する手順を間に置いておきたい場面です。
もう一つは、通達・Q&A・ガイドラインの引用です。国税庁・厚生労働省・個人情報保護委員会などの通達は改廃が頻繁にあります。引用する場合は最新版のURLを確認し、版数・改定日を本文または注記に書いておく形が読みやすいです。
数値の引用も気をつけたい場面です。「○%増」「○万件」のような数値は、出典(白書・公表資料)と公表年を本文または注記に明記しておきます。AIが古い数値を最新と取り違える場面もありますので、一次資料との突き合わせを業務の流れに置いておきます。
個人情報保護法のガイドライン(通則編)については、個人情報保護委員会から最新の改正版が公表されています(末尾参考リンクをご参照ください)。「最新版」と書く際は、版数・改定日とセットで書いておくと、読み手も版の特定がしやすくなります。
著作権と引用の流れ
ニュースレターを「他社・他媒体の記事をまとめた抄録」ではなく「事務所の見解を加えた解説」として組み立てる場合、著作権の論点は比較的扱いやすくなります。一方、AIに「○○新聞の記事を要約して」「△△先生のブログを参考に書いて」と指示する流れでは、事実上の翻案・依拠が混ざる場面が出てきます。
文化庁が公表している「AIと著作権に関する考え方について」および「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」では、学習段階と生成・利用段階を区別したうえで、生成物が既存著作物に依拠・類似していないかを利用者側が確認する場面があるとされています(末尾参考リンク)。
実務の流れとしては、他媒体の記事はURLでの参照または公的資料の引用にとどめて、AIに丸ごと書き換えさせない、という運用例があります。引用する場合は出典・公表日・引用範囲を明示し、本文を主・引用を従にする形で組み立てます。AI生成画像をアイキャッチ等に使う場面では、利用ツールの規約と商用利用範囲を確認しておく流れになります。
顧問先の固有情報をAIに渡さない設計
ニュースレターの原稿作成の流れの中で、顧問先固有の情報をAIに渡さない設計を取っている事務所が多いです。たとえば「A社の決算スケジュールに合わせた解説を書いて」とプロンプトに会社名・売上規模を含める、過去の顧問先質問メールを「事例として」貼り付けて要約させる、顧問先リストCSVを配信用にAIで整形させる、といった場面は避けるという運用です。
入力データが外部学習に使われる契約のAIサービスでは、これらは情報漏えいに相当する場面があり、守秘義務・個人情報保護法上の安全管理措置の論点が同時に絡んできます。
回避の流れは比較的単純で、原稿作成は「一般化された業種・規模・テーマ」だけをAIに渡し、顧問先名・固有事情は最終工程で士業の方ご本人が手で差し込む運用にしておきます。配信リスト管理はAIに渡さず、配信ツール側で完結させる形が取りやすいです。
顧問先名・屋号は「製造業・年商10億円規模の顧問先向け」のように一般化したテーマだけをAIに渡し、「A社(株式会社○○)向け」のような具体名は最終工程で手で差し込みます。個人名についても「経理担当者向け」までをAIに渡し、「○○部長宛て」は最終差し込みにします。決算書から転記した実数値、受信メール本文の貼付、顧問先リストCSV、申告控えなどはAIに渡さない、という流れになります。事務所として承認済みの有償プランを使い、個人アカウントの無料版を業務に使わない事務所もあります。
配信ツールとデータ管理の場面
配信は、メール配信SaaS(Mailchimp、Brevo、Benchmark Email等)、自社メールサーバ、顧問先ポータル掲載などの選択肢があります。検討の場面では、いくつかの観点を間に置いておくと、後から振り返りやすくなります。
顧問先情報を含むリストを海外サーバに置く場合は、利用目的・第三者提供の整理が必要になる場面があります。AIで生成した原稿を直接配信ツールに流すAPI連携は便利ですが、認証情報の管理権限を曖昧にしない流れになります。開封率・クリック率・配信失敗ログをどこに何年保管するかも、導入時に決めておく事務所があります。退会・配信停止対応については、特定電子メール法のオプトアウト表示等の要件を満たす形を取ります。
便利だからと配信ツールを増やすと、顧問先情報の所在が分散して棚卸が難しくなります。導入の段階で管理台帳を作っておくと、後から経緯を振り返りやすくなります。
配信前に確認する場面
レビュー担当者が「送信」ボタンを押す前に、いくつかの観点を間に置いておきます。法令・通達・統計のURLと公表日が本文または注記に書かれているか、本文が主・引用が従の関係になっているか、顧問先名・個人名・未公表案件が混ざっていないか、配信リストの追加・削除が当月分まで反映されているか、特定電子メール法のオプトアウト導線が機能しているか、レビュー実施者・実施日時を残したか、といった場面です。
配信そのものが個人データの取扱いに該当しますので、利用目的の特定・安全管理措置・漏えい等の報告義務といった枠組みは、AIを使ったかどうかにかかわらず、業務の流れの中に置いておく形になります。
視点の置きどころ
ニュースレター制作の流れの中でAIを道具として使うとき、視点を置く場所は「速度」ではなく「事務所名で出して恥ずかしくない品質」のほうに置いておくと、後から困りにくいようです。速さを優先して誤情報や固有情報の混入が起きると、回復に必要なコストは月1配信を半年止める以上に大きくなる場面があります。
AIに渡しやすい工程(テーマ候補・下書き・翻訳ドラフト)と、士業の方ご本人が押さえる工程(一次情報の裏取り・固有情報差し込み・有資格者レビュー)を分けて、後者を時間予算として最初に確保しておく事務所もあります。月次のペースを止めない流れは、AIで時間を浮かせることよりも、人間がやる工程の所要時間を毎号ぶれない数値にしておくことから整えていく場面が多いです。
参考
- 個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/
- 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」および「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/aiandcopyright.html
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/