就業規則をAIで作成・改定するときは、現行規程と公的なモデルを比較するところから始める方法があります。会社の制度や勤務実態が決まっていない箇所は、AIに一般的な条件を補わせず、確認事項として残します。
社労士が採否を判断するために、元の条文、変更案、その理由、会社への確認事項を同じ表で見られるようにします。この記事では、そのための作業手順を提案します。
どのモデル就業規則を参照する?
厚生労働省はモデル就業規則を公開し、事業場の実情に応じて作成・届出を行うよう案内しています。2026年9月14日の確認時点では、令和7年12月版が掲載されています。着手時には、厚生労働省の掲載ページで版を確認し、参照する資料の名称・版・取得日を記録します。
同ページは、常時10人以上の労働者を使用する事業場について、労働基準法89条に基づく就業規則の作成・変更時の届出が必要と説明しています。モデルに載っている条文を一括で取り込むという意味ではありません。会社で採用する制度と必要な記載・手続きを確認しながら使います。
AIへ渡す前に何をそろえる?
次の三つを区別して準備します。
| 資料 | 確認すること | 足りない場合の扱い |
|---|---|---|
| 現行の規程 | 適用中の版、対象者、別規程との関係 | どの版が有効かを会社に確認する |
| 比較する公的資料 | 資料名、版、対象とする条文・解説 | 出所や版が不明な雛形を基準にしない |
| 会社の制度・実態 | 労働時間、賃金、休暇などの現状と変更方針 | 推測で条件を置かず、質問にする |
比較対象を決める段階で、社名や従業員の相談内容をAIへ渡す必要があるかも見直します。実名や個別事情を含めるのは、利用する環境と契約上の入力範囲を確認してからにします。
新旧対照表には何を出力させる?
比較結果は「不足しています」という判定だけで受け取らず、原文へ戻れる形にします。次は、改定作業で使う表の項目案です。
| 項目 | 記載する内容 |
|---|---|
| 現行規程の箇所 | 規程名、条番号、該当する原文 |
| 比較資料の箇所 | 資料名・版、条番号・ページ、該当箇所 |
| 差分 | 追加・削除・表現変更の候補。対応先が不明ならその旨 |
| 会社への質問 | 対象者、制度の有無、実際の運用など |
| 改定案と理由 | どの確認済み条件を反映する案か |
| 採否 | 採用・修正・見送り・確認待ちと、その判断者・理由 |
AIへの依頼文の例です。
指定した現行規程とモデルを比較し、上の項目で対照表を作ってください。各行に原文の所在を示し、条番号が一致するだけで同じ内容とみなさないでください。会社の制度が資料から分からない場合は質問にしてください。モデルとの差を法令違反と断定せず、判断を要する候補として出してください。
表ができたら、比較元の原文を開いて内容を確かめます。原文にない条項を引用していないか、対象者や例外を省いていないかを確認し、対応する条項が見つからない箇所も拾います。
社労士はどこを判断する?
会社の労働時間制度、賃金体系、適用する従業員の範囲などを、実態と変更方針に照らして確認します。制度の名称だけを根拠に、必要な労使協定や手続きを一律に決めないようにします。
改定候補ごとに、次の事項を書き出します。
- 会社が何を変更したいのか、その理由と対象者
- 現行の条件から何が変わり、誰に影響するのか
- 関連する規程や個別の労働条件と整合するか
- 適用される法令と、その時点で必要な手続きは何か
- 会社への説明・確認、労使に関する手続き、届出・周知などを誰が進めるか
AIの案を確認しただけで、これらの判断や手続きが済んだ扱いにしないことが大切です。採否と残件を対照表に戻し、確定した改定版へ反映します。
就業規則や相談記録をAIに入力してよい?
モデルが公表されていることと、顧問先の現行規程や改定相談を外部へ渡せることは、別々に確認します。個人情報を入力する際は、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分確認するよう、個人情報保護委員会が注意喚起しています。個人情報保護委員会の注意喚起
まず規程の比較に必要な範囲を決め、個別の休職・懲戒・ハラスメント相談の記録を、資料一式として一緒に投入しない運用にします。判断に必要な実際の条件は原資料に保持し、入力を許可していない値を架空の条件へ置き換えて、そのまま改定案に使わないようにします。
改定後は何を確かめる?
確定した規程の版、適用日、対象者、必要な手続きの進捗を記録します。古い規程を参照し続けないよう、所内の保存先と検索対象も確認してください。
AIを入れた効果を調べるなら、対照表を作る時間に加え、原文確認と修正に使った時間、見落とした差分、根拠のない変更案の数を記録します。比較表を速く出せたかだけで判断せず、確認を含む作業全体で改善したかを見ます。
まず一つの改定論点を対象に、原文付きの対照表を作り、採否と残る確認事項まで記録するところから始めてみてください。