税理士事務所でAIの試用対象を選ぶなら、記帳の候補作成、資料回収の不足候補整理、メールの論点整理、所内資料の検索などを、作業単位で比較してください。その際は、入力してよい資料、求める出力、確認者を一組にします。「記帳補助なら安全」「FAQなら確認不要」と、業務名だけで利用可否を決めない方針を提案します。
まずは、元資料と照合できる範囲を選び、実際の登録・送信・提出へ進める前に人が確認する設計から試しましょう。本稿の表とメール対応例は、試用範囲を決めるための提案・架空例です。特定の事務所の導入実績や、作業時間の削減を示すものではありません。
記帳・資料回収・メール対応では、何を試せる?
同じ「記帳」でも、証憑から候補を作る作業と、内容を確認して登録する作業を分けます。以下の表は、担当者が試用内容を相談する際のたたき台です。すべてのAI製品が対応する機能一覧や、各業務の安全性を保証する表ではありません。
| 対象業務 | AIに求める出力の例 | 人が照合するもの |
|---|---|---|
| 記帳補助 | 証憑からの入力候補 | 元の証憑、取引内容、登録先 |
| 仕訳チェック | 確認箇所とその理由 | 該当仕訳、根拠資料、修正の要否 |
| 資料回収 | 受領一覧と不足している資料の候補 | 顧問先、対象月、依頼済み・受領済みの記録 |
| メール対応 | 質問の整理と返信下書き | 原文、質問への回答漏れ、宛先、伝えてよい内容 |
| 所内検索・FAQ | 関連資料の該当箇所と回答案 | 対象年度、版、参照できる顧問先、引用元 |
| 顧問先への説明 | 決定済み内容に沿った説明文案 | 所内で確認した結論、条件、相手への約束 |
表の右列を確認できる人と資料がそろうものを、最初の候補にしてください。確認者が答え合わせできない出力を、文章が自然であることだけで採用しない運用にします。
仕訳の確認を選ぶ場合は、AI仕訳チェックの候補・確認・確定の分け方で、記録項目と指摘なしの扱いを詳しく整理しています。所内検索を選ぶ場合は、RAGとChatGPTで既存機能と追加構築を比較するへ進んでください。
「下書きだけ」でも、入力情報の確認は必要?
下書きを人が確認する手順と、AIサービスに資料を渡してよいかの確認を、別々に行ってください。送信前に文章を修正する手順を設けても、入力時の情報の扱いは別に検討する必要があります。
個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプトを入力する事業者に対し、特定した利用目的の達成に必要な範囲かを確認するよう注意喚起しています。また、本人の同意なく個人データを入力する場合、応答の出力以外に利用されると法令違反となる可能性があるとして、機械学習への利用の有無などを確認するよう求めています。生成AIサービスの利用に関する注意喚起・別添1
所内の試用では、次の項目を記入してから対象資料を選ぶ方法を提案します。
| 確認項目 | 所内で記入すること |
|---|---|
| 利用目的 | どの作業のために、どの情報が必要か |
| 対象資料 | 顧問先・期間・資料の種類と、対象から外す情報 |
| 利用サービス | 契約・設定・学習利用・保存・削除の確認結果 |
| 参照範囲 | 利用者がどの顧問先の資料を参照してよいか |
| 出力の使い道 | 所内確認用か、顧問先へ渡す文案か。登録や送信は誰が行うか |
名前を隠すことや、法人向けの契約を選ぶことだけを完了条件にせず、具体的な資料と利用条件を合わせて判断してください。詳細は顧問先情報をAIに入力する前の確認手順で確認できます。
メール対応は、どこまでを試用範囲にする?
架空の顧問先Aから、月次資料の提出状況と処理内容について質問が届いた場面を考えます。ここでは、利用条件を確認したメールと所内資料を使い、担当者が回答する前の整理を試用範囲とします。
最初に、メールの原文から質問を取り出し、資料の受領状況を答えればよい部分と、取引内容や税務上の確認が必要な部分に分けます。AIには各質問の該当箇所も示すよう求め、担当者が原文と照合します。
次に、所内で確認できた情報を使って返信案を作ります。受領したファイルは確認できても、その内容確認が終わっていないなら、「必要な資料はすべてそろった」と書かせないようにします。判断材料が足りない質問は、追加で確認する資料と担当者を記録し、回答済みにしません。
送信前には、質問への回答漏れ、対象月、宛先、添付、相手に約束する内容を担当者が確認します。文案の採用と実際の送信を分け、試用段階では担当者が送信する範囲とします。
この例で確かめたいのは、返信文ができたかだけではありません。質問を取りこぼさず整理できたか、根拠のない回答を足していないか、担当者の確認・修正を含めて現在の手順より負担が減ったかを記録します。実際の効果は、自所の対象資料で比較してください。
新しいAIを契約する前に、既存ソフトで何を見る?
試したい工程が決まったら、契約中のソフトにある機能を確認します。例えばfreeeは、2026年7月の「freee顧問先管理」の発表で、AIによる提出資料の振り分け・保管と、提出期限に合わせた自動リマインドを案内しています。資料回収の機能を比較するための具体例です。freeeの機能発表
ただし、発表に機能が載っていることと、自所の契約・資料・手順で利用できることは分けて確認してください。既存ソフトに資料回収機能があるなら、追加のAIを作る前に、対象となる資料、料金、顧問先の提出方法、職員の確認操作を試します。
不足するものが「文案作成」なのか「提出状況の記録」なのか「会計ソフトとの連携」なのかを分けて書き出してください。生成AIに依頼文を書かせるだけでは、提出状況を管理する仕組みまで用意したことにはしない、という選定の考え方です。
最初の一業務を、どう選んで見直す?
候補の中から、入力できる資料が決まり、結果を照合できる担当者がいる作業を選ぶことを勧めます。初回の試用では、対象範囲と完了条件を短く書き出してください。
- 「メール対応」ではなく「質問を整理して担当者の確認用に出す」など、作業の終点を決める。
- 利用する資料と対象外を定め、同じ資料で現在の手順と比較する。
- 取りこぼし、誤った情報の追加、確認と修正に使った時間を記録する。
- 許容しない誤りと、担当者へ戻す条件を満たしたかを見て、継続・範囲変更・再試用・見送りを決める。
試用が終わったら、対象を広げる前に結果を所内で共有してください。利用する顧問先、資料、契約、送信・更新の範囲が変わる場合は、同じ確認結果をそのまま使わず条件を見直します。
費用や連携、外部支援まで含めて導入を決める段階では、税理士事務所のAI導入を判断する順序へ進めます。本稿で記入した「業務・入力資料・出力・確認者」を、次の相談や試用の条件として使ってください。