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2026 / 09 / 11 セキュリティ

Drive/SharePointにAIをつなぐ前に、権限の地層を見ておく

Lead

Copilot / GeminiをDrive・SharePointに接続する前後で、士業事務所が点検しておきたい権限の地層・棚卸しの順序・自社と外部の分担についてお伝えします。

SharePointのアクセス権が広いまま残っている状態でMicrosoft 365 Copilotを入れると、Copilotへ「直近の顧問先一覧を教えて」と聞いたときに、退職した方が以前担当していた別法人の案件メモまで出力に含まれる、という場面があります。

これはCopilotの不具合ではなく、仕様どおりの動きです。Microsoftの公式ドキュメントでは、Copilotは「ユーザーがアクセス権を持つコンテンツ」をMicrosoft Graph経由で参照すると明記されています。SharePointやOneDrive上でアクセス権が広めに設定されたまま放置されていたファイルが、AIのレスポンスとして表面化する形になります。

Google DriveとGeminiを連携する場合も、利用者がアクセスできるファイルの範囲が広いままなら、同じ論点が出ます。人が手で探していた間は表に出なかった権限の緩さが、AIを入れた段階で見えるようになります。本稿では、この場面を出発点に、士業事務所がDrive / SharePointにAIを接続する前後で点検しておきたいことをお伝えします。

権限が「地層」になっていく流れ

ファイルストレージの権限設計は、運用期間が長いほど地層になります。典型は次の形です。

  • 開業当時に作った「全員共有フォルダ」がそのまま残っている
  • 退職者・元アルバイトのアカウントが共有メンバーに残っている
  • 「リンクを知っている全員」で外部共有してしまったファイルが放置されている
  • フォルダの継承権限と個別ファイル権限が食い違っている
  • 「とりあえず編集権限」で渡したファイルが組織内全体に広がっている

これらはAIを入れる前から存在する論点です。ただし、人が手で探す範囲は、自分が知っているフォルダに限られます。AIは前提が違って、アクセス可能な範囲をまとめて横断します。

Copilotの前準備として「SharePoint Advanced Management (SAM)」「Microsoft Purview」が案内されていて、SAMについてはoversharing (過剰共有) の削減と非アクティブサイトのクリーンアップを目的とすると説明されています。Copilot導入前にoversharingが放置されていることを想定した機能構成です。

AI接続で見えてきやすい権限漏れの場面

AIを接続したあとに権限漏れが表に出る経路は、次の4つです。

退職者が担当していた案件が、後任の検索結果に流入する場面

退職者が担当していた顧問先フォルダの権限を、退職処理のときに剥がし切れていないケースです。後任の方がAIに「過去の議事録を要約して」と頼んだ瞬間、本来は引き継ぎ範囲外だった機微情報まで要約結果に混ざる経路が開きます。

部門横断で共有していた雑多フォルダから情報が逆流する場面

「事務所全体共有」や「みんなのドキュメント」といったフォルダに、各部門が長年好きにファイルを置いていた場合、AI検索の対象として一括で読み込まれます。給与関係・人事評価・特定の依頼者の機微情報が混じっていれば、それらも同じ対象に入ります。

外部共有リンクが残ったままのファイル

過去に「リンクを知っている全員」で社外の協業先と共有したファイルが、社内側にも残っている場面です。AIは社内ユーザー視点でアクセス可能なので、社内の方が意図せず外部公開状態のファイルを呼び出す経路が出てきます。

機微情報が紛れ込んだ非構造ファイル

スプレッドシート末尾のメモ欄、Wordの脚注、PDFのOCRテキストなどに紛れ込んだ個人情報や守秘義務情報です。人間の目では拾いにくいのですが、AIの意味検索ではそこにヒットすることがあります。

個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、生成AIに個人データを入力する際の留意点を示しています。社内AI連携であっても、入力データに個人データが含まれる以上、利用目的の特定・個人データの安全管理措置といった義務は変わりません。

棚卸しを進めるときの順序

完璧な権限棚卸しを一気にやろうとすると、着手の規模が事務所の人的リソースを超えます。段階を分けた進め方は次のとおりです。

「AIに読ませる範囲」を最初に絞る

全フォルダの権限を見直してからAIを入れるのではなく、最初の接続範囲を限定する発想に切り替える形です。Microsoftはこの用途に、Restricted Content Discovery (RCD) で特定サイトをCopilotや組織全体の検索の対象から外す方法を案内しています。許可リストで読めるサイトを絞るRestricted SharePoint Searchは、2026年7月31日から新規の有効化ができなくなっており、これから導入する事務所の選択肢にはなりません。Google Workspace側では、Gemini機能を使える利用者・組織部門を管理コンソールで限定し、その利用者が参加する共有ドライブから整理する形が取れます。

退職者・休職者・元委託先のアカウント整理

過去3年程度を範囲に、退職者がオーナーになっているフォルダ、共有メンバーに残っている外部メールアドレスを抽出します。AIを入れなくても着手すべき作業ですが、AI連携の検討はその着手の機会になります。

外部共有リンクの棚卸し

「リンクを知っている全員」で公開されているファイルを管理コンソールで一覧化します。SharePointなら管理センター、Google Workspaceなら管理コンソールから抽出できます。件数が多すぎる場合は、機微キーワード (顧客名・案件番号・「機密」「秘」など) でフィルタする方法もあります。

「全社共有フォルダ」の解体

地層になっている雑多フォルダは、棚卸しというより解体に近い作業です。新しい正規フォルダを別途作って、必要なファイルだけ移すほうが結果的に早く終わります。

AI向けの検索範囲を制御する

連携範囲の制御は、利用するスタックによってやり方が変わりますが、考え方は共通しています。

Microsoft 365側

  • Restricted Content Discoveryで、Copilotに読ませたくないサイトを検索対象から外す
  • SharePoint Advanced Managementでoversharingレポートを定期確認する
  • Microsoft Purviewでセンシティビティラベルを付与し、ラベル単位でAI利用を制御する

これらの機能は標準ライセンスでは制限があり、追加ライセンスが必要なものも含まれます。コスト試算は別途必要になります。

Google Workspace側

  • 管理コンソールでGemini機能の利用ユーザー・組織部門を制限する
  • 対象の利用者が参加する共有ドライブのメンバーと共有設定を先に見直す
  • 「リンク共有を組織内に限定」をデフォルトポリシーにする

Googleも「ユーザーの送信内容はモデル学習に使われず、人間によるレビューも行われない」と説明していますが、これは「学習されない」という話で、「権限漏れが起きない」保証とは別の論点として整理しておきます。

セキュリティ・コンプライアンス上の論点

士業の業務に特有の論点として、いくつか押さえておきたい場面があります。

守秘義務との関係

弁護士法・税理士法・社労士法等の守秘義務は、「AIに読ませた」だけで違反になるわけではありません。ただし、AI経由で意図せぬ第三者 (同じ事務所内の別案件担当者を含む) に情報が露出した場合、守秘義務との関係が論点として出てきます。アクセス制御が機能している前提が崩れた状態でAIを使うのは、点検価値が高い場面と言えます。

個人情報保護法との関係

個人情報保護委員会の注意喚起では、個人データを生成AIに入力する場合、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを確認すること、サービス提供事業者が入力された個人データを機械学習に利用しないこと等を確認することが案内されています。社内テナント完結型のサービスでも、契約形態とデータ取扱いの確認は必要です。

監査ログと事故発生時の追跡

AIが誰のクエリで何を返したか、どのファイルを参照したかが追える状態かどうかは、事故発生時の説明責任に直結します。Microsoft 365 / Google Workspaceどちらにも監査ログの機能はありますが、保管期間とアクセス権限を運用側で設計しておかないと、いざという時に「ログがありませんでした」になりやすい場面があります。

領域別の進めやすさ

事務所の体制によりますが、目安は次のような分かれ方になります。

領域自社で進めやすい外部の伴走を検討
アカウント整理退職者・元委託先の権限棚卸し―
フォルダ構造全社共有フォルダの解体・命名規則―
AI接続範囲1部門限定の初期運用SAM / Purviewの組み合わせ設計
ラベリング―センシティビティ分類体系と一括適用
監査・ログ―保管基盤・SIEM連携
法務・教育―守秘義務突合せ・利用ポリシー策定

判断に迷うラインは、「ラベリングと既存ファイルへの一括適用」あたりです。ツール操作自体は管理者でも可能ですが、分類基準の設計を誤ると後で全部やり直しになります。

冒頭の場面から見えてくること

冒頭の場面は、AIが暴走したのではなく、これまで人の目に届かなかった権限の地層がAIによって見えるようになった結果です。接続範囲を絞り、棚卸しを行い、監査を設計する、という順序を逆にすると、見えてしまった権限漏れを後から追う運用になります。

退職者アカウント・外部共有リンク・全社共有フォルダのあたりは、AI連携の有無にかかわらず点検対象として挙がるところです。AI接続は、その点検を後ろに回しにくくする装置として作用する、という見方ができます。「いきなり全社展開しない」「初期は1部門に絞る」と決めておけば、初動で影響する範囲をその1部門に閉じられます。Drive / SharePointへのAI接続は、権限の地層を使う前に解体できるかどうかで、運用の体感が大きく変わる領域です。

参考

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士業AI