AIで契約書のドラフトを作るなら、最初に用意したいのは、契約条件とその根拠を並べた表です。合意済みの条件、こちらから提案したい条件、まだ決まっていない条件を分けてから、承認済みの雛形へ反映させます。
この記事では、弁護士・企業法務担当者向けに、初稿を作って採否を決めるまでの手順を提案します。出来上がった契約書を点検する観点は、契約書レビューAIの限界で扱っています。
AIへ契約書の作成を頼む前に何をそろえる?
依頼メール、打ち合わせ記録、見積書などから、次の項目を整理します。記録にない値は空欄のまま残し、誰に確認するかを書きます。
| 項目 | 記録する内容 | 照合するもの |
|---|---|---|
| 当事者 | 正式名称、契約上の立場、署名者 | 当事者が確認した情報・関係資料 |
| 業務・納品物 | 対象業務、対象外、納品と検収の条件 | 仕様書・見積書・合意の記録 |
| 金額・支払 | 金額、税の扱い、支払時期 | 合意済みの見積・条件表 |
| 期間・終了 | 開始日、期間、更新・終了条件 | 合意の記録と交渉中の論点 |
| 権利・責任 | 知的財産、秘密保持、責任の範囲 | 所内方針と案件ごとの判断 |
| 状態 | 合意済み・提案中・確認待ち | 相手方とのやり取りの日時 |
同じ表に「業界では一般的らしい」という推測を確定条件として入れないようにします。過去に使った条件でも、今回の取引で採用すると決めるまでは候補です。
AIにはどのように初稿を依頼する?
入力を許可した資料だけを使い、採用する雛形の版と条件表を指定します。依頼文の例です。
指定した雛形を起点に、条件表で合意済みとなっている内容だけを反映してください。提案中の条件は別案に分け、確認待ちの値を推測で補わないでください。初稿とともに、変更した条項、変更前後の文、条件表の参照箇所、残る確認事項を出してください。条文や判例を追加する場合は、出典の確認が必要な候補として分けてください。
初稿全体を一度に採用せず、変更表から確認します。空欄が残ったときに文章の自然さを優先して埋め直させると、条件が決まっていないという情報を失います。確認待ちの一覧を先に解消する運用にします。
金額や条項は何と照合する?
次の表は、初稿を採用するときの確認項目の提案です。AIが出した変更一覧だけに頼らず、雛形と初稿の差分も直接確認します。
| 確認箇所 | 採用前に行うこと |
|---|---|
| 当事者・金額・日付 | 条件表と原資料の値を照合する。表示単位や税込・税抜も確認する |
| 義務と例外 | 誰が何を行うか、対象外とする事項が条件表どおりか確認する |
| 賠償・解除・権利帰属 | 候補の理由を確認し、取引目的や交渉方針に照らして採否を決める |
| 定義・参照番号 | 用語の意味、別条項への参照、本文と別紙の対応を確認する |
| 法令・判例 | 引用先の原文、適用時点、案件との関係を確認する |
| 交渉中の条件 | 相手方の同意があるような断定へ変わっていないか確認する |
確認後は、採用した版、判断者、残る交渉事項を記録します。相手方に送る版と所内検討用の版も分け、送信前に対象ファイルと宛先を確認します。
弁護士法72条についてはどの資料を見る?
弁護士法72条との関係を確認する際は、法務省のガイドライン等の案内から、利用予定のサービスに関係する資料を確認してください。以前保存した解説だけで判断せず、対象とする機能・案件・利用方法を整理してから資料と照合します。
本稿の作業手順を、そのままサービス提供の適法性判定に使うことは想定していません。外部サービスを選ぶ場合は、誰がどの機能を提供し、誰がどの案件で使うのかを書き出して、資料の対象と照合するための材料にします。生成された文面の確認者を置いたという一項目だけで、判断を終えないようにします。
契約条件や依頼者情報を入力してよい?
個人情報保護委員会の注意喚起では、事業者が個人情報を生成AIに入力する際、特定した利用目的の達成に必要な範囲内かを十分確認するよう求めています。個人情報保護委員会の注意喚起
入力前には、依頼者との契約・秘密保持の条件と、利用するAIのデータ取扱条件を照合します。学習利用、保存期間、閲覧できる人、削除方法を別々に確認し、許可の範囲が決まるまでは案件資料を投入しない手順にします。サービスのプラン別確認は、AI入力と学習利用の整理も参照してください。
氏名を置き換える場合も、金額や合意内容まで都合よく変更しないことが大切です。実際の値を渡せない環境では、原資料を所内に保持したまま、公開可能な雛形の構成確認までに用途を限定します。
まず一つの契約類型で、条件表・初稿・変更表をそろえて確認してみてください。確認待ちの値を勝手に埋めていないか、原資料へ戻れるか、採否を記録できるかを確かめてから、扱う類型を広げます。